3月のライオン・羽海野チカ:圧巻の心理描写に心打たれる。

 メジャーな作品すぎて感想を書くのもどうかと思うくらいの「3月のライオン」。作者の羽海野チカといえば誰もが「ハチミツとクローバー」を思い浮かべるでしょう。

 

 

「それぞれの人々の思い」を「優しく描かれる日常」と「逃れることのできない現実」の間に挟んでいくその手法は3月のライオンでも健在です。

 

 

高校生でありがならプロ棋士である主人公を中心にその日常が描かれます。物語がどこへ進んでいくのかは読者には全くわかりません。物語の写実感からしてこの物語の中で主人公が棋士の頂点に立つというようなことはないとも思えます。

 

 

登場人物のほとんどはどこか心に重石を乗せられたようなところがあります。その重石をどうにかしようともがいていくけれど簡単にどうこうできるものではない。

 

まだ完結していないこの作品の中ではまだ何も解決していません。おそらくきっと解決しないのでしょう。我々のリアルな世界と同じように。

 

 

一番好きなエピソードは第8巻の「焼野が原」とタイトルのついたエピソードです。66歳の柳原棋匠がメインのこのエピソードは柳原棋匠の内面をたすきにがんじがらめになっていく絵で表現しています。圧巻の心理描写はこちらの心が痛くなるほどです。

 

 

既刊も10巻を超え、物語はクライマックスに向かっているように思えます。どう終わらせるのかもこの作品の見所だと思います。楽しみですね。